「縦・横・斜め」リニアのエレベーター 軌道は自由自在、実用化を目指す。
京都市のベンチャー企業「リニアリティー」が、ロープを使わずリニアモーターで動く自走式エレベーターを開発している。軌道が縦方向に限定されないため、横、斜め、曲線などあらゆる方向へ移動できる。2025年の実用化に向け、京都大学宇治キャンパスで試作機を製造。大阪・関西万博で企業パビリオン内での展示を目指す。
「建築物の設計に無限の自由が生まれる」と話すのは、同社のマルコン・シャンドル社長(74)。母国であるハンガリーの大学で電気工学を専攻し、京大でも学びながらエレベーター大手のフジテックで長く研究開発に携わった。定年退職後、構想を温めてきたリニアエレベーターを実現するべく17年に起業した。
リニアリティーのエレベーターは、コイルを内蔵した装置が昇降路内に並び、コイルに電流を流して生まれた磁力で輸送かごを動かす仕組みだ。装置の並べ方は自由自在で昇降路の軌道はあらゆる方向に対応できる。
円形など複雑な構造の建物でも、エレベーターの設置が可能になる。磁力で動くため摩擦は起こらず、振動も少なく静かに移動できるという。
一つの昇降路内に複数の輸送かごを設置できる点も特徴だ。運行は人工知能(AI)で管理する。
現在の高層ビルでは複数の昇降路がスペースを占領してしまうが、昇降路の数が減ると空いたスペースにテナントが入り、増収が見込めるという。
安全性にも細心の注意を払う。従来のロープ式エレベーターと同様のブレーキや安全装置が装備されるほか、磁力を発生させるモーターへの電力が遮断されても誘導電流により落下を防ぐ仕組みを設けた。今後国土交通省による認証に向けたヒアリングが行われる。
量産化に向け、トルコの電機メーカー「デシールド社」と協同してトルコ南部アンタルヤに工場を建設中で、研究開発も行われている。一方、リニアエレベーターを採用する企業を見つけて出資を受け、コスト面の障壁をクリアすることが目下の課題だ。
マルコン社長は、リニアエレベーターの技術は建物内にとどまらず街中の移動手段にもなると話す。「坂道や階段など移動の不便も解消でき、快適な都市を創造できる」と将来を見据える。